第1章 Rustとは何か

Rustとは?

Rustは、近年注目を集めているシステムプログラミング言語です。本章では、Rustの誕生背景や特徴、他言語との比較、システムプログラミング言語としての位置づけ、そしてRustの核となる「メモリ安全性」と「所有権モデル」について解説します。


Rust誕生の背景・特徴

Rustは、Mozillaの元エンジニアであるGraydon Hoare氏によって2006年に個人プロジェクトとして始まりました。Mozillaがこのプロジェクトを正式に支援し始めたことで開発が加速し、2015年にバージョン1.0がリリースされました。

特徴

  • メモリ安全性: コンパイル時にバグを防ぐ所有権システムにより、ダングリングポインタやデータ競合といった問題を回避。
  • ゼロコスト抽象化: 高レベルな抽象化を提供しつつも、実行時のパフォーマンスにほとんど影響を与えない。
  • 高い並行性: スレッドセーフなコードを書きやすく、並列処理に強い。
  • モダンな文法: 型推論、パターンマッチ、マクロなど、現代的な言語機能を多数搭載。

Rustは、「安全性」「速度」「並行性」の三要素を高いレベルで両立させることを目指して設計されています。


他のプログラミング言語との比較

言語 特徴 メモリ管理 並行性 適用分野
C/C++ 高速だがバグを起こしやすい 手動 難しい 組み込み、ゲーム、OS等
Java 自動メモリ管理で安全 GCあり 比較的簡単 業務アプリ、Web等
Python 書きやすいが遅い GCあり GILによる制限あり スクリプト、AI等
Go 並行処理が得意 GCあり goroutine Web、クラウド等
Rust 安全性と速度の両立 所有権と借用 コンパイル時に検査 システム、WebAssembly、CLI等

RustはC/C++に匹敵する速度を持ちながら、より安全で現代的な文法を備えている点で注目されています。


システムプログラミング言語としての位置づけ

システムプログラミング言語とは、OS、ドライバ、ゲームエンジン、Webブラウザなど、低レベルな制御や高いパフォーマンスが求められる領域で使われる言語です。

Rustは以下の理由から、次世代のシステムプログラミング言語として位置づけられています:

  • C/C++に代わる安全で高速な選択肢
  • LLVMをバックエンドに採用し、ネイティブコードへのコンパイルが可能
  • WebAssemblyへの対応により、Webやエッジデバイスにも展開可能
  • 大規模なプロジェクト(例: Firefoxの一部、Amazon Web Servicesの内部ツール、Dropboxのバックエンド)での採用事例


「メモリ安全性」と「所有権モデル」の重要性

Rustが特に注目される理由の一つが、所有権モデルを用いたメモリ安全性の確保です。

メモリ安全性とは

C/C++などの言語では、メモリ解放のし忘れ、二重解放、参照先の消失(ダングリングポインタ)など、深刻なバグを引き起こす可能性があります。Rustでは、これらの問題をコンパイル時に検出する仕組みがあります。

所有権モデルとは

Rustでは、変数が所有権(ownership)を持ち、スコープを抜けると自動的にメモリが解放されます。このルールにより、GC(ガベージコレクション)なしでメモリ管理が可能です。

また、参照(borrow)は次の2種類があります

  • 不変参照(&T): 読み取り専用の参照。複数存在可能。
  • 可変参照(&mut T): 書き込み可能な参照。同時に1つしか存在できない。

これにより、データ競合をコンパイル時に防止できます。

借用チェッカー(Borrow Checker)

Rustコンパイラは、これらのルールをBorrow Checkerによって厳密に検査します。これがRust特有の「難しさ」でもありますが、同時にRustの強力な安全性の源でもあります。