第22章 フレームワーク

フレームワークとは

ウェブアプリケーションを開発する際に再利用可能なモジュールや機能を提供するソフトウェアの枠組みです。フレームワークを使用することで、開発者は基本的なルーチンや冗長なコードを書く手間を省き、アプリケーションの主要な機能に集中することができます。

2000年代初頭、PHPの人気が急上昇し、ウェブアプリケーションの複雑さも増してきた。このころからフレームワークの必要性が高まり始める。初期のフレームワークとしてCakePHPやCodeIgniterなどが開発される。

2010年代、LaravelやSymfonyといった新しいフレームワークが登場し、PHPのフレームワークランドスケープがさらに成熟してきた。

フレームワークを使用することで効率性、安全性、再利用性などが保障される一方で、新しいフレームワークを学ぶには時間がかかることや 一般的なソリューションを提供するために、フレームワークは必要以上に重くなることがあります。

次項からは一般的なフレームワークが提供する機能について記載します。


MVCアーキテクチャ

MVC(Model-View-Controller)アーキテクチャは、アプリケーションの設計パターンの一つで、アプリケーションの主要な機能を3つの連携するコンポーネントに分けるものです。以下にそれぞれのコンポーネントの役割を詳しく説明します。

Model(モデル)

データの管理とビジネスロジックの処理を担当します。

データベースとのやり取り(CRUD操作: Create, Read, Update, Delete)。ビジネスロジックやデータのバリデーション。アプリケーションの状態の保持。などがあります。

View(ビュー)

ユーザーに表示されるインターフェース(UI)を担当します。

データの表示や、ユーザーからの入力を受け付けるフォームなどのUI要素。HTML, CSS, JavaScriptなどのクライアントサイド技術を使用。モデルから受け取ったデータを適切な形式で表示。などがあります。

Controller(コントローラー)

ユーザーからの入力を受け取り、モデルとビューを適切に操作してアプリケーションのフローをコントロールします。

ユーザーのアクション(例: ボタンクリック、フォームの送信)を受け取る。必要に応じてモデルを操作してデータを取得・更新。モデルから取得したデータをビューに渡し、表示を更新。

MVCのメリット
  1. 分離の原則: 各コンポーネントは独立しているため、一部の変更が他の部分に影響を与えにくい。
  2. 再利用性: 各コンポーネントは他の部分から独立しているため、再利用が容易。
  3. スケーラビリティ: アプリケーションの成長に合わせて、特定のコンポーネントだけを拡張することが容易。
  4. 保守性: クリーンなコード構造のおかげで、バグの特定や新しい機能の追加がしやすい。


ルーティング

ルーティングは、ウェブアプリケーションでURLのパスを特定のコントローラーやアクション(関数)にマッピングする仕組みのことを指します。つまり、ユーザーがブラウザでアクセスするURLに応じて、適切なレスポンス(HTMLページ、JSONデータなど)を返す役割を果たします。

基本的なルーーティングの例

routes/web.phpファイル内に以下のようなコードを書くことで、/helloというURLにアクセスがあった場合、"Hello, World!"という文字列を返す設定ができます。(Laravelの例)

use Illuminate\Support\Facades\Route;

// ルートURLへのアクセス
Route::get('/hello', function () {
    return 'Hello, World!';
});


コントローラーへのルーティング

もし、特定のURLに対して複雑なロジックを実行したい場合、コントローラーを利用します。例えば、UserControllershowメソッドを/user/{id}のURLにマッピングする場合は、以下のように書くことができます。(Laravelの例)

Route::get('/user/{id}', 'UserController@show');

こうすることで、/user/1というURLにアクセスがあった場合、UserControllershowメソッドが呼ばれ、引数idには1が渡されます。


名前付きルーティング

ルートに名前をつけることも可能で、これによりビューやコントローラー内でのURLの生成が簡単になります。(Laravelの例)

Route::get('/user/profile', 'UserController@show')->name('profile.show');

このように名前をつけておくとroute('profile.show')という関数を使用して、このルートのURLを取得できます。


バリデーション

フォームバリデーションは、ユーザーからの入力データが期待する形式や条件を満たしているかを確認するプロセスです。不適切な入力をフィルタリングすることで、データの品質を確保し、セキュリティのリスクを低減します。

PHPフレームワークの中でも、Laravelは非常に便利なバリデーション機能を提供しています。以下、Laravelを使用したフォームバリデーションの具体的な例を示します。

想定:ユーザー登録のためのフォームから、名前(name)、メールアドレス(email)、パスワード(password)を受け取るシチュエーション。

use Illuminate\Http\Request;

public function store(Request $request)
{
    // バリデーションルールを定義
    $validatedData = $request->validate([
        'name' => 'required|max:255',
        'email' => 'required|email|unique:users',
        'password' => 'required|min:8|confirmed',
    ]);

    // バリデーションを通過したデータをデータベースに保存などの処理
    // ...

    return redirect('home');
}

name: 必須入力で、最大255文字。

email: 必須入力、メールアドレスの形式で、usersテーブルに同じメールアドレスが存在しないこと。

password: 必須入力、最小8文字で、password_confirmationフィールドと一致していること。


テンプレートエンジン

テンプレートエンジンとは、ウェブアプリケーションで動的にHTMLやその他のテキストベースのドキュメントを生成するためのツールやライブラリのことを指します。テンプレートエンジンを使用することで、PHPのロジックとHTMLのマークアップを分離し、コードの保守性や再利用性を高めることができます。

PHPの世界では、多くのテンプレートエンジンが利用されていますが、その中でも「Blade」や「Twig」は非常に人気があります。

Bladeの例

Laravelフレームワークに組み込まれているテンプレートエンジンです。Bladeのテンプレートは通常、.blade.phpという拡張子で保存されます。


Hello, {{ $name }}!


@if ($user->isAdmin())
    

管理者です。

@else

一般ユーザーです。

@endif @foreach ($users as $user)

{{ $user->name }}

@endforeach

Twigの例

Twigは、PHPのための柔軟で高速なテンプレートエンジンです。多くのフレームワークで利用されていますが、Symfonyフレームワークでの利用が特に有名です。

Hello, !

    

一般ユーザーです。


テンプレートエンジンのメリット

  1. 分離: PHPのロジックとHTMLのマークアップをクリーンに分離できます。これにより、デザイナーやフロントエンド開発者がテンプレートの編集を容易に行うことができます。
  2. 保守性: テンプレートの構造が整理され、コードの再利用や保守が容易になります。
  3. セキュリティ: 多くのテンプレートエンジンは、変数を出力する際に自動的にエスケープしてくれるため、クロスサイトスクリプティング(XSS)のリスクを低減できます。
  4. 拡張性: ユーザー定義の関数やフィルタを簡単に追加でき、テンプレートエンジンの機能を拡張することができます。

フレームワークの例

PHPは、多くの著名なフレームワークを持つ言語の一つです。以下に、いくつかの人気のあるPHPフレームワークとその特徴を紹介いたします。

Laravel
  • 特徴: 現代のウェブアプリケーションの要件に合わせて設計されており、速度、セキュリティ、およびプリセットのツールが充実しています。
  • 特色: Eloquent ORM、Bladeテンプレートエンジン、ミドルウェア、RESTfulルーティング、依存性注入、ジョブキューなどの強力な機能があります。
  • ユースケース: あらゆるタイプのウェブアプリケーションに適しています。


Symfony
  • 特徴: 高度にカスタマイズ可能なフレームワークで、再利用可能なコンポーネントを持っています。
  • 特色: Doctrine ORM、Twigテンプレートエンジン、セキュリティ、翻訳、バリデーション、フォームをはじめとする多くのコンポーネントがあります。
  • ユースケース: 大規模なエンタープライズアプリケーションや高度にカスタマイズされたプロジェクトに適しています。


CodeIgniter
  • 特徴: 軽量で、学習曲線が比較的緩やか。フルスタックフレームワークとしての機能は限られていますが、パフォーマンスが高いです。
  • 特色: アクティブレコード風データベース操作、フォームバリデーション、セッション管理、セキュリティツールを持っています。
  • ユースケース: シンプルで迅速なウェブアプリケーション開発を求めるプロジェクトに適しています。


Zend Framework
  • 特徴: 高度にオブジェクト指向であり、企業向けの堅牢なソリューションを提供します。
  • 特色: さまざまなコンポーネントを持ち、それぞれが独立して使用することができます。Webサービス、フォーム、バリデーション、フィルタリングなどがサポートされています。
  • ユースケース: 大規模な企業向けのアプリケーションや、特定のコンポーネントのみを使用したいプロジェクトに適しています。


Phalcon
  • 特徴: C言語で書かれており、拡張としてPHPにインストールします。このため、高速なパフォーマンスを実現しています。
  • 特色: ORM、キャッシング、テンプレートエンジン、ルーティングなどの多くの機能が組み込まれています。
  • ユースケース: パフォーマンスが非常に重要なプロジェクトやアプリケーションに適しています。


Slim
  • 特徴: 軽量で、RESTful APIの構築に特化しています。
  • 特色: ミドルウェアアーキテクチャ、ルーティング、PSR-7サポートを含む。
  • ユースケース: 簡潔なAPIや小規模アプリケーションに最適。


Yii
  • 特徴: 高性能なフレームワークで、速度を求める開発に適しています。
  • 特色: アクティブレコード、キャッシング、認証、ロールベースのアクセス制御などの機能が含まれています。
  • ユースケース: ウェブアプリケーションやAPIの開発、特に速度が重要なプロジェクトに適しています。


CakePHP
  • 特徴: 古典的なフレームワークの一つで、規約の上での開発を重視しています。
  • 特色: ビルトインのCRUD(作成、読み取り、更新、削除)機能、セキュリティ、認証、およびセッション管理。
  • ユースケース: 早く、安全に、確実にウェブアプリケーションを開発したい場合に適しています。


FuelPHP
  • 特徴: 軽量で、柔軟性があります。
  • 特色: ORM、認証、テンプレートパーシング、セキュリティ機能などを持っています。
  • ユースケース: カスタマイズ可能なフレームワークを求める中規模から大規模のアプリケーションに適しています。


Laminas (Zend Frameworkの後継)
  • 特徴: 企業向けの高度なソリューションを提供。
  • 特色: さまざまなコンポーネントとモジュール。API開発、認証、セッション管理などの機能が組み込まれています。
  • ユースケース: 大規模かつ複雑なアプリケーションやエンタープライズソリューションの開発に適しています。