第1章 プロンプトエンジニアリング概論

プロンプトエンジニアリングとは

プロンプトエンジニアリングとは、近年急速に発展したAI学問分野における概念で、言語モデル(LM:Language Model)から導き出される結果を最適化するための命令を設計する技術です。特に近年のAIは自然言語で利用することから適切な命令を設計できるかどうかにより結果に大きく影響します。

AIの発達によりプロンプトエンジニアリングの重要性はますます高まり、業務の効率化や事業計画の立案、資料の作成、関連分野の調査など活用できる領域は増加の一途を辿っています。また高度なプロンプトエンジニアリングは専門知識を必要とする一方、基礎的なAIの利用はビジネスパーソンにとって必要不可欠となっています。

ここではAIに対して効果的な命令を作るための教材となるようなドキュメントを目指します。


大規模言語モデル(LLM)とは

大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)とは、大量のテキストデータ(公開データ、非公開データを含む)を解析、特徴量抽出を行い、数千万から数千億個のパラメータを持つニューラルネットワークで構成されます。

LLMは、一般に深層学習と呼ばれるAIの分野に属しており、特にトランスフォーマーという種類のニューラルネットワークを使用します。この種のモデルは、自然言語処理(NLP)タスクにおいて非常に効果的であることが証明されています。

OpenAIによって訓練されたGPT-3やGPT-4などのモデルは、LLMの一例です。これらのモデルは、その訓練データから学習したパターンを利用して、ユーザーが提供するプロンプト(つまり指示や質問)に対する適切な応答を生成します。

しかし、これらのモデルには限界もあります。たとえば、モデルは新たな情報を「理解」するのではなく、訓練データから学習したパターンを再現します。また、モデルは訓練データがカットオフされた時点以降の新しい情報を知らないため、その後の事実や出来事についての質問には答えられません。


大規模言語モデルの構築例

  1. データ収集: モデルの訓練に使用する大規模なテキストデータセットを収集します。これには、ウェブページ、書籍、記事、その他のさまざまなテキストソースが含まれることが多いです。
  2. データ前処理: データをモデルが処理できる形式に変換します。これには、テキストのトークン化(テキストを単語やフレーズに分割するプロセス)、不要な要素の削除、エンコーディング(テキストを数値に変換するプロセス)などが含まれます。
  3. モデルの設計: ニューラルネットワークのアーキテクチャを設計します。多くのLLMでは、トランスフォーマーアーキテクチャが使用されます。
  4. モデルの訓練: データセットを使用してモデルを訓練します。このプロセスでは、モデルは入力データ(テキスト)と出力データ(次のテキスト)の間の関係を学習します。
  5. モデルの評価と調整: テストデータセットを使用してモデルのパフォーマンスを評価します。そして、必要に応じてモデルのパラメータを調整します。
  6. モデルの監視と更新: モデルのパフォーマンスを継続的に監視し、必要に応じて更新します。これは、新しいデータでモデルを再訓練することによって行われることが多いです。


大規模言語モデルの実例

2023年現在、大規模現モデルの実例としてChatGPTが広く知られています。

ChatGPTはOpenAIによって開発された、大規模な言語生成モデルの一つです。"GPT"は"Generative Pretrained Transformer"の略で、これはモデルの背後にあるAI技術を示しています。

ChatGPTは自然言語処理(NLP)タスク、特に会話型のタスクに特化して設計されています。それは人間との対話を通じて質問に答えたり、テキストを生成したりします。ユーザーが入力(プロンプト)を提供すると、モデルはそれに基づいてテキストを生成します。その応答は訓練データから学んだパターンに基づいており、特定のプロンプトに対する「最も可能性の高い」応答を試みます。

しかし、ChatGPTは直感的な理解や意識を持っているわけではありません。それはあくまで学習したパターンを再現するだけで、新たな情報を「理解」したり、意識的な思考を行ったりする能力はありません。また、訓練データがカットオフされた時点以降の新しい情報を知らないため、その後の事実や出来事についての質問には答えられません。


大規模言語モデルの応用例

ここではChatGPTを使った応用例の可能性についていくつか提示します。

  • 文章生成:電子メールのドラフト、ブログ記事、広告コピー、スピーチの文言、報告書などの生成に活かせる可能性があります。
  • 文章校正:文法やスタイル、誤字脱字や不適切な表現の検出など、ユーザの文章を校正するアプリケーションが活躍する可能性があります。
  • クリエイティブ活動:そのまま使用するのは難しいが、物語のシナリオ、歌詞、映画のスクリプト、ゲームのテキストなどに利用できる可能性があります。
  • マーケティング戦略:市場調査、競合分析、顧客の声の分析など、マーケティング戦略の分野で利用される可能性があります。
  • ユーザ対話システム:質問応答、チャットボット、教育用チュータリング、簡易な医療相談などの分野に活用できる可能性があります。
  • 人事業務支援:履歴書のスクリーニング、面接事項の自動生成、職務経歴の要約など、採用プロセスの効率化の可能性があります。
  • テキストのー要約:ニュース記事、科学論文、会議の議事録、契約文書など要約により効率的な理解を助ける可能性があります。
  • プログラミング支援:実行コードの生成、既存コードの解読、バグの発見などプログラミング業務を加速化する可能性があります。
  • 感情分析:製品レビューや口コミ、ソーシャルメディアの投稿などから消費者の意見や感情を分析できる可能性があります。
  • メンタルヘルス:ユーザの気分や感情や心理を理解し、メンタルヘルスの領域でのサポートできる可能性があります。
  • テキスト選択:テキストの信頼性を評価し、フェイクニュースや似非科学、スパムの判定や偽情報の検出に役立つ可能性があります。
  • リサーチアシスタント:複数の情報源から情報を集約し、リサーチや学術的な研究を支援することができる可能性があります。
  • 翻訳:一つの言語から別の言語への翻訳、古代の言語から現代語への翻訳などの可能性があります。
  • 旅行の計画:好みや実績を学習する事により、旅行ガイドへの利用や異文化交流の促進などに利用できる可能性があります。
  • 購買支援:ユーザの好みや関心を学習することで、個々のユーザに最適な製品、サービスの提案などを行う可能性があります。
  • 料理支援:健康状況を合わせて栄養を加味した食事の提案や、冷蔵庫の残り物を使ったレシピの生成などに使用できる可能性があります。
  • ユニバーサルインターフェイス:AIを利用した音声アシスタントや文字起こしサービス、オーディオブックの生成などの可能性があります。
  • イベント企画:はイベントの日程設定、参加者の管理、場所の選択、予算の管理など計画立案の助けになる可能性があります。

これらはあくまで一部の例であり、大規模言語モデルの応用範囲は非常に広いです。ただし、全ての応用が倫理的、法的に適切であるわけではなく、特に人々のプライバシー、自動化による雇用の影響、情報の誤解や誤用については注意が必要です。

LLMを使用する際にはその限界と潜在的なリスクを理解することが重要です。例えば、LLMは訓練データから学習するため、そのデータに含まれるバイアスを反映する可能性があります。また、LLMは理解や意識を持っていないため、出力は必ずしも真実や適切なものではないかもしれません。