第1章 生成AIとの対話設計概論

本章の目的

本章では、生成AIを活用するうえで不可欠となる 「AIにどう指示を与えるか」ではなく、「AIとどう協調するか」という視点について整理する。

かつて広く使われていた「プロンプトエンジニアリング」という言葉は、 現在ではやや範囲が狭く、実態を正確に表さなくなりつつある。

2026年現在の生成AI活用では、 単なる入力文(プロンプト)ではなく、

  • 文脈(コンテキスト)
  • 役割・制約
  • 履歴
  • 外部データ
  • ツールやAPI
  • 出力形式や評価基準

まで含めた総合的な設計が求められる。

本章ではこれを「AIインタラクション設計」あるいは「コンテキスト設計」と呼ぶ。

「プロンプトエンジニアリング」という言葉の現在地

「プロンプトエンジニアリング」は、

  • AIに渡す指示文を工夫する
  • 良い質問を考える
  • 出力を安定させるための書き方を学ぶ

といった文脈で広まった言葉である。

これは生成AI黎明期においては有効だったが、 現在の実運用では以下の点で不十分になっている。

  • 単発の指示だけでは複雑なタスクを扱えない
  • 会話履歴や状態管理が前提になっている
  • ツール呼び出しや関数実行が一般化している
  • 画像・音声などのマルチモーダル入力が増えている

そのため近年では、

プロンプトエンジニアリング → プロンプトデザイン

指示文の工夫 → 対話・文脈・制約の設計

という捉え方へと移行している。

生成AIは「質問応答システム」ではない

現代の大規模言語モデル(LLM)は、単なる質問応答エンジンではない。

  • 状況を理解し
  • 役割を演じ
  • 条件を守り
  • 複数のステップで思考し
  • 外部ツールを使いながら
  • 結果を構造化して出力する

擬似的な業務遂行エンジンとして振る舞う。

つまり、重要なのは「良い質問を書くこと」ではなく、AIが正しく判断・行動できる環境を整えることであり、これがコンテキスト設計の本質である。

コンテキスト設計とは何か

コンテキスト設計とは、AIに与える情報を 偶発的な文章ではなく、設計された入力として扱うことを指す。

具体的には以下の要素を組み合わせる。

  • 目的(何を達成したいか)
  • 役割(AIは誰として振る舞うか)
  • 前提条件(守るべき制約)
  • 入力データ(テキスト・画像・構造化データ)
  • 出力形式(JSON、表、文章など)
  • 判断基準(正解・品質の定義)

これらを意識的に設計することで、生成AIは「それらしい回答」ではなく、再現性のある成果物を出力できるようになる。

なぜ今、設計が重要なのか

生成AIの性能は年々向上しているが、性能向上=自動的に正しい結果が出る ではない。

むしろ、

  • モデルが高性能になるほど
  • 出力の自由度が上がるほど
  • 設計の曖昧さが結果に影響しやすくなる

という側面がある。

そのため、実務で生成AIを使う場合、

  • 属人的な使い方
  • その場限りの指示
  • 再現性のない対話

から脱却し、設計として扱う視点が不可欠になる。

本サイトで扱う立ち位置

本サイトでは、「魔法のプロンプト」「一発で完璧な指示」「職人技としてのプロンプト」といった考え方は採らない。

代わりに、

  • 設計として再利用できる
  • 他者に説明できる
  • チームで共有できる
  • システムに組み込める

実務向けのAIインタラクション設計を扱う。

次章以降では、

  • 基本的な設計原則
  • 実践的なパターン
  • ツール・API連携
  • マルチモーダル・エージェント設計

など段階的に進んでいく。

第2章 コンテキスト設計の基本
最終更新日:2026年01月23日 19時18分33秒